:::the end:::
誰が決めたのか分からないが、最後はいつも線香花火だった。
「ねえ、太一」
「ん?」
浴衣姿の空が、落とすように呟く。
「もう、終わっちゃうね」
知っているし、解っている。
今日で最後。
夏が、終わる。
そして、子供ではいられなくなる。
義務教育の終わりへ向けて、疾走せねばならない。
「…そうだな」
そう言って、最後の線香花火を渡した。
空のそれに火をつけてやると、静かに火花がはじけていく。
「ねえ…太一」
小さな火の玉を落とさぬよう。
そうっと、空が言った。
「今日のこと、忘れないわ」
その小さな赤いしずくが落ちぬよう。
囁くように続けた。
「この先、大人になって、忘れちゃうこともいろいろ、あるかもしれないけど」
太一の方を向いて、笑んだ。
「太一とこうやって過ごしたの、きっと忘れない」
その笑顔が途方も無く綺麗だったから、思わず息を呑んだ。
なんてね、などと少しおどける空は、いつもの空ではないようで、
「空」
太一が少しだけかすれた声で名を呼ぶ。
彼女は一瞬びっくりしたように目を見開き、やがてにっこりと笑って目を閉じる。
彼はまるですいよせられるように、
赤い玉がゆれて、ぽとん、とおちた。
→何となく、寂寥感。