:::爪:::


気がついたら、爪が欠けていた。

「あ」
「どーした?」
まじまじと爪を見ていたら、太一が覗きこんできた。
「ううん、ただ爪が欠けちゃっただけ」
「空って爪伸ばしてたっけ?」
少し離れたところで楽譜と睨めっこをしていたヤマトがふと顔をあげた。
「そんなつもりはないけど…」
一体、何が『そんなつもり』なんだろうか。
「…部活引退したからかしら」
「あー、分かるかも」
ヤマトが言うと、太一はそれが気にくわなかったらしく、
「何が分かったんだよ」
と口を尖らせた。
「だからさ、そういう手入れがおろそかになったって事だろ?ギターだって、少し弾かなかったらチューニング必要になるし」
当たってる気もするけど、ううん、やっぱり違うわ、と心の中で呟く。
「よくわかんねー」
「何で分かんないんだよ」
ヤマトと太一が色々言ってるのを遠くで聞きながら、また、欠けてしまった爪を見る。

部活を引退して、ラケットを握らなくなって。
手入れがおろそかになったんじゃなくて、手入れをするようになったという事を、男の子の2人に言うのは、何だか気が引けた。
ましてや、爪を伸ばしてマニキュアを塗っている、とか、そんなことを言えるはずがない。
男の子と同じようにふるまっていた頃を知っている彼らになら、尚更だ。

「…痛いのか?」
「え?」
心配そうな太一の顔が、自分の爪を見ていた。
じっと、爪ばかり見ていたからかな、とぼんやり考える。
「ううん、」
軽く首を振った。
「大丈夫、痛くないわ」
「…そっか」
太一はほっとしたのか、それとも話題に飽きたのか、ヤマトに別の話題を持ちかける。
ヤマトはまた楽譜に向き合いながら、太一の言葉に相槌を打った。

私は、また、ただじっと爪を見つめた。







→こういうのは成長って言うのでしょうか。気を遣うようになりますよね、女の子は。