:::No Side:::


「じゃあ、解散」

太一が声を張り上げた。
後輩や友人が各々大きい鞄を抱え、ある者は何も言わず、ある者は肩を叩き合って歩き出す。
顧問教諭は最後まで残っていたが、太一に曖昧に何かを告げて去っていった。

グラウンドの端に、太一は佇んだままだった。
彼の影が少しずつ伸びていく。



「太一」

後ろから静かな声が投げかけられる。

「なんだ、空、帰ってなかったのか」

とっくに試合は終わったのに、と太一が少し笑った。
彼は決して空のほうを振り向かない。

「もうヤマトたちは帰ったんだろ?空も一緒に帰ればよかったのに」
「太一」
「…俺は、だいじょうぶだからさ」

俯かないように。
深呼吸をして。
優しい彼女に気づかれないように。



「太一」

静かな声がまた己の名を呼ぶ。
その声がかすかに震えていた気がした、なんて。


「太一。おつかれさま」

ことり、と背中にあたたかいぬくもりを感じた。
胸が締め付けられて、苦しくなる。

「泣いても、いいよ」

固く握った拳に、そうっと彼女の手がふれた。
世界が急速に滲んでいく。

「空」

悔しくて。
悔しくて。

涙を堪えて振り向いたら、
やっぱり泣きそうな空の笑顔がそこにあった。


「太一。…がんばったね」


まるで母親が泣きじゃくる子供にするように、空は太一を抱きしめた。






→「ノーサイド」(松任谷由美)を聞いていて書きたくなった話です。是非聞いてみてください。  というかもっと曖昧な感じで書きたかった…