:::靴下:::
「ねぇ、空!」
友人が空のもとに走ってきて、楽しそうに言った。
「八神くんの靴下にね、穴があいてたの」
呆れた、と空は呟く。
太一らしいと言えば、そうなのかもしれないが。
「それでね、私、八神くんに、穴あいてるよーって言ったのよ」
「ふぅん。で、恥ずかしがったりしたの?太一は」
そんな事するはずもないのは、知っているけれど。
友人は相変わらず楽しそうな表情で首を振った。
「まさか」
「…よね」
苦笑を浮かべると、友人はここからが本題、と言わんばかりに顔を近づけた。
「八神くんね、靴下に穴があいてた方が都合がいいんだって」
「え?」
不都合はあるだろう。
しかし都合がいい事はあるのだろうか?
考えてこんでたら、友人は、やだ、空ったら眉間にしわ寄ってる、とか言ってでこぴんしてきた。
そして、その友人は続けた。
「八神くんね、言ったの。最近、空は俺のまわりの女の子を気にして話しかけてこないーって」
「あ…」
確かに。
彼の幼なじみでも、他の女の子の多くはそれを知らず、ゆえに容赦はしてくれない。
中学に入って異性を意識し始める頃だけになおさらだ。
「だから、穴が話しかけるきっかけなんだって」
「でも、私以外にも穴に気付く人はいるわよ。私だけ、という訳にはいかないわ」
空が言うと、相手はしっかりと頷く。
「うん、でもね、」
友人はそっと囁いた。
――裁縫道具持って駆けつけてくれるような人は、アイツくらいだろ?
→空は太一の奥様だと言う話。やっぱり太一と空は夫婦だと思います。