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  12月25日、終業式  
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「うわッ、寒ッ」
昇降口を出た瞬間、太一は思わず声をあげた。
一緒に帰る空に聞かせたかった訳ではないが、すぐ後から出てきた空も呼応するように一瞬顔をしかめた。
「寒いわね」
「こりゃ雪ふるんじゃねぇの?」
はー、と吐く息が白い。
今夜は冷え込むだろう。
「寒いけど、雪ふったら素敵ね」
夢見るように空が言うと、太一は少し不満げな顔をした。
「でも雪ふったらサッカー出来ねぇよ…」
呟いて空を見ると、彼女はくすくす笑っている。
「…何だよ」
「だって…」
太一のむっとした顔を見てますます笑う。
「太一って、サッカーの事しか考えてないのね」
「ち、違…ッ」
反論しようとしたが、それが不可能である事に気がついた。
『空の事も考えてる』などと、言えるはずもないのだから。
「ふふ、ごめんね?」
むすっとしていると、彼女はやわらかく、すまなさそうに笑った。
それだけで、許してしまえる。
「…ま、いいけど」
「ありがと」
空が軽く寄り添う。

「ところで、太一」
「ん?」
いたずらっぽく、笑った。
「成績。どうだったの?」
「う゛」
毎学期恒例、終業式の悪夢。
「どうだったのよ、通信簿」
「えーと、あ、雪ふるかなぁ!!」
「ごまかさないの」
にこ、と笑う。
「…ちぇ」
しぶしぶ、鞄をあけて通信簿を裏向きにして渡す。
空は楽しそうにそれを開き、意外そうな声をあげた。
「あ、成績上がってる」
空は通信簿の数字を指さした。
「数学が4?頑張ったじゃない」
私と同じよ、と空が言うと、太一は少し嬉しそうに
「ヤマトと丈に教えてもらったんだ」
と言った。
空は笑いながら指を横にずらした。
「体育はさすがね…でも英語は頑張らなきゃね」
「じゃあ空が教えてよ」
軽く甘えてみる。
空は少し考えて、いいわよ、と微笑み、太一に通信簿を手渡した。

「てかさ、」
太一があたりを見回して言った。
「何か、人多くねぇ?」
「…、そうね」
空も自分の周囲を見回す。
まわりには、男女連れ。
何でここにいるのか、なんて分かりきっている。
「やっぱり、クリスマスだからよ」
「さすがお台場」
つまらなそうに太一が呟く。
「何がいいんかね」
「でも、お台場って都内でも有名なデートスポットよ?」
苦笑して続ける。
「お台場に住んでる人から見たら不思議かもしれないけど」
「人が多いからやだよなぁ、夜もうるさいし」
「仕方ないわよ」
たしなめるような空の口調。
「せっかくのクリスマスだもの、みんな恋人と一緒にいたいわよ…」
ふと空は口をつぐむ。
何か、引っ掛かる。
自分が言った、何気ない言葉だけど。

「そうだよな、せっかくだよな」
「えっ?」
唐突な太一の言葉に、物思いにふけっていた空は現実に引き戻される。
「え、何?」
答えはない。
少しだけ先を歩く太一が、空に笑いかけて。
彼は、彼女の方に手をさしのべた。
「行こうぜ」
「たいち」

「せっかくのクリスマス、だろ?」

空の中で、疑問が氷解していく。
誘ってほしいと、思ってたのかもしれない。
「さぁ」
空は頬をそめて、そっと太一の手にふれた。
太一が指をからませ、手を握る。

イルミネーションが輝く街でデートをしているカップルたちの中に、太一と空はとけていった。


太空祭りに投稿したものです。
いつも疑問なんですけど、どうして公立校はほぼ12/25=終業式なんでしょう…。もっと早くしてくれてもいいじゃないか!と毎年言ってた気がします。
どうでもいいですけど、クリスマスの話が書きたかったんではないです。あくまで終業式。
あと、この作品、実はすごい評価をいただいてどっきどきでした。はわわ…!これからも精進します…!

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