------------ ブレイク ------------ 冬の洗濯物は、そんなに好きではない。 まず第一に乾きが悪い。 低い気温と、日が短いせいだと思う。 うっかり干す時間が遅くなると、夜に乾燥機を使わなければならなくなったりする。 それに、洗濯物を干すと指がだんだん動かなくなる感覚は堪らない。 洗濯物そのものと、外気とがダブルで手の感覚を奪いにかかる。 これ以上はないというくらいに冷え切って、関節がキシキシしてきて、それでも尚冷え続ける。 それでも晴れていれば洗濯物は外で干すのが自分のルールだ、といつだったか太一に話したら、お前ホント主夫してんな、と笑われた。 まあ、所詮半分一人暮らしのようなものだから、毎日洗濯する必要は無く。 数日に一回、定期的に洗濯すれば良いという、それだけが救いなのだろう。 ――だから、その日、雪を見てまず思ったのは、「洗濯物干せないな」だった。 「しまったな…昨日天気予報見忘れた」 ヤマトはひとりごちる。 明日には洗濯物を干せるだろうか。 ベランダに出てみれば息は白く。 音も無く降る雪は、恐らく積もりはしないだろう。 洗濯を一日遅らせても支障は無いだろう。 そしてふと、感慨もへったくれも無いことを考えていることに気づき、苦笑した。 今日はクリスマスだと言うのに。 下を見てみると、団地の子ども達が歓声を上げて走り出していた。 もう一度苦笑して、ヤマトは中に入り窓を閉めた。 雪の日は好きだ。 何となく時間がゆるゆると過ぎる気がして。 こういう日は、のんびりしたくなる。 ふらり、と台所に立ってヤマトはインスタントのコーヒーを淹れた。 粉は多めに入れることにしている。 安っぽい味だという人もいるが、ヤマトはその安っぽさが好きだった。 ソファに深々と腰掛け、足を組み、雑誌に目を通す。 インスタントコーヒーを口にする。 電話のベルも、テレビの音も、ラジオのノイズも必要ない。 ゆっくりとページを繰る音と、コーヒーを啜る音と、かすかに聞こえる子ども達の笑い声が、薄雪に吸い込まれていく気がして。 こういう孤独は悪くない、と思った。 まどろみにも似た安心感の中、ヤマトはまた一口、コーヒーを飲む。 雑誌をめくりながらぼんやりとする。 すると唐突に、ドアチャイム。まるで目覚ましのように。 夢から覚めたような気がして、ちょっと名残惜しく思いながら立ち上がった。 「はい」 インターホンに出ると、ディスプレイいっぱいに、 「こんにちわっ」 笑顔のミミがいた。 「どうしたの」 「どうしたの…って、」 ヤマトの発言に、部屋にあげてもらいながらミミは実に気軽に言った。 「雪が降ってたから思わず飛び出してきちゃった。それで、何となく散歩してたら、ヤマトさんちの近くまで来たから」 えへへ、と笑うミミの鼻の頭も耳も、そして頬も赤く。 外の寒さにも負けずにやってきた彼女を、すごいと思う。 彼女は自分に無い素直さを持っている。 いつから、失ってしまったのだろう? しかしそれはひがみではないのを、ヤマトはよく知っている。 「ミミちゃん、外寒かっただろ。あったかい飲み物いれようか?」 「あ、うん、ありがとう」 ヤマトはにっこりすると言った。 「何がいい?」 「えっと、じゃあ、コーヒーお願いしていい?」 「分かった。ちょっと待ってて」 台所へ向かう背中へ、ミミが急いで追加した。 「…インスタントで!」 思わず噴き出した。 自分がインスタントで淹れているのを知っているからこそ。 そして、そのままでは苦すぎて飲めないから、砂糖とミルクをたっぷりと入れるのだ。 「はいはい。承りました、お客様」 くつくつと笑いながらヤマトはおどけてお辞儀をする。 ミミもくすくすと笑いながら可愛らしく言った。 「お願いしまーす」 「ああ、そうそうヤマトさん」 ミミの声に、台所でカフェオレをつくるヤマトは顔を上げた。 透き通る声で、彼女は笑った。 「メリー・クリスマス!」 彼女の純真さをうらやむ気持ちは、ひがみではなく。 単純に、惹かれるのだ。 |
山も落ちも無い話ですみません。でも付かず離れずな感じのヤマミミ?は好きでたまりません。
というか今冬はそんなに寒くないですね;むしろ暖冬。 これは個人的な意見なんですけど、ヤマトの隙間をうめられるのってミミじゃないかと思うんです。 02でのデジタマモンの回とか、手放しで信じてあげるというのはそうそうできるものじゃないと思うんですけど、そういうのがヤマトには必要かもしれないな、とふと思ったりします。 |
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