----------------- moderate time ----------------- 昼休み、屋上にての事。 「太一」 背中に呼びかけたが、返事はない。 「太一?寝てるの?」 歩み寄って、空は坐りこんだままの太一の顔を覗きこんだ。 彼の目は、ちゃんと開いている。 「…太一ッ」 「…んぁ?…あぁ、ボーっとしてた」 「全く、もう…」 空は呆れて呟いた。 そして立ったまま尋ねる。 「何か考え事?」 「いや…別に」 しばしの沈黙の後、太一は高い空を見上げた。 「いい天気だな…」 「…そうね、」 空も同じように見上げた。 「あったかいし、風も気持ちいい…」 そのまま、空は眼を閉じた。 太陽の光や柔らかな風、鳥の声や葉が揺れる音が聞こえる。 太一は太一で、はるか遠くを見つめている。 お互いの沈黙が、何だか心地よかった。 どのくらいの時間が経ったのだろう、空が太一のすぐ傍に、静かに腰を下ろした。 もはや定位置とも言える隣ではなく、彼の後ろに。 「…空?」 どうして背中合わせなんだよ、と太一は尋ねた。 空は少し微笑んで、「何となく、ね」と言った。 2人を包む陽射しのせいか、それとも別の理由からか、2人の周りの空気は優しく、暖かい。 「ねぇ、太一」 「ん?」 「…何かあったの?」 少し落とされた、空の声。 太一はちょっと黙ってから言った。 「別に…」 「嘘でしょ」 「…何で」 「いつもの太一らしくないわ」 太一はぴくりと眉を動かした。 空は上空を見た。 鳥が1羽、ゆっくりと飛んでいる。 「太一、元気ないみたい」 「別にそんな事ねぇって」 「そう見えるのよ」 ねぇ、本当にどうしたの?と空が尋ねた。 太一はふぁ、とあくびをしてから言った。 「別に。ただ、ちょっと眠いんだ」 「もう…何なのよ」 空は呆れたように言った。 太一は苦笑した。 「本当だって」 「…ホントに?」 「ああ」 そう、と空は呟いて、ほんの少し、太一の方にもたれかかった。 太一は、空の背中を己の背中で受けとめる。 「…ねぇ、太一」 「ん…?」 「こういう状態って、本当は難しいのよ」 「え?」 太一が聞き返す。 彼女が言った言葉も、意図した意味も分からない。 空は一言一言、選ぶように言った。 「どっちかが強く押したら…倒れちゃうよね?逆に、片方が力抜いても、ダメよね」 「あぁ…それで?」 「……ありがとね」 太一は困ったように笑って言った。 「何で、そうなるんだよ」 「…『別に』」 空はくすくすと笑った。 いつも、自分は太一に支えられている。 今だって、包みこまれるような幸せを感じている。 きっときっと、笑っていられるのも、彼のおかげ。 全てを預けられるのは、彼しかいないだろう。 だから私も、安心して何かを預けてもらえるような人に、なれたらと思う。 遠くの方で、昼休みの終わりを告げるチャイムの音。 「なぁ、空」 名残惜しいと思いつつ、太一は声をかけた。 反応が、ない。 「…空?」 ほんの少しだけ首をひねって様子をうかがう。 彼女は、軽い寝息をたてていた。 安心しきっているかのような、静かな寝息。 太一はちょっと笑って、呟いた。 「じゃあ…サボるか」 そして太一も、そっと目を閉じた。 彼女の左手にふわりと自分の右手を重ねて。 |
読んだら分かると思います。背中合わせ・太空のイラから思いつきました。静かな話とかしみじみとか好きなんで。こんな感じ。
結局空中心の話なはずが、どっちつかずになったのは気にしないって事で。(太一中心の方が書きやすいし) ちなみに、タイトルの「moderate time」は和訳すると「おだやかな時間」です。桐島月龍さんが考えてくれました。大感謝です。 |
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