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  ふたたび  
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お花に毎日水をあげるのが、あたしの習慣。

「ねぇ、ママ!咲いたわ!」
色とりどりの、チューリップ。




そう、初めて自分一人で育てたのも、チューリップだった。
今でも覚えてる。
淡く、可愛らしい、ピンク色の花。


ママに何度かすすめられたけど、そのたびにいろいろ理由をつけて、断ってた。
ずっと、そーゆーのってめんどくさいな、って思ってた。

――あの夏まで





あの冒険が終わって、だいぶ時間がたって。
少しさみしい気がして、
何となく、花を育てよう、と思った。
本当は、花じゃなくてもよかったのだけれど。

あたしのになったチューリップの鉢植えに、マジックで名前を書く。
まだ芽が出てないのを、もらった。


水をあげてて、ぼんやり思った。

 …パルモンの、代わりに?



慌てて首を振る。
忘れたくないのは事実だけれど。
でも、パルモンを花に重ねたら、よけいに切なくなるから。

 淋しい

でも、それには気付かないフリをして。





「あたしにでも、育てられるかなぁ?」

あたし飽きっぽいから、とママに言ったら、ママは笑って、
「ミミちゃんにも出来るわ」
と言った。




毎日毎日、お水をあげて。

チューリップは、少しずつだけど、ちゃんと大きくなった。





いろいろ、お花について知りたくなって、空さんにいろいろ教わった。
空さんは、優しい言葉であたしを導いてくれた。



「ミミちゃん。植物は、ぜんぶ分かってしまうのよ」

ある時、空さんが言った言葉。
「植物は、まわりの空気に敏感だから」

意味分かんない。
首をかしげると、空さんは微笑んだ。
「だから、気持ちも全部分かるのよ」
「あたしの事も…?」
「もちろん。植物はとても敏感だから」
だから、良い友達になれるのよ、と空さんは言ってた。

半信半疑だったけれど、
チューリップを眺めていたら、急にそんな気がしてきて。


打ち明けようか。

「あのね」

泣いた。
笑った。
怒った。
嬉しかった事も、悲しかった事も、みんな、みんな。
包み隠さず、伝えてみた。

チューリップは、黙って話を聞いてくれて、時折頭をゆすって返事をしてくれた。



ほんの少しだけ、さみしさは埋められて、

気がつけば、毎朝、少しだけ早起きして、お水をあげるのが習慣になってた。



ある春の朝。
チューリップの花が、咲いた。


あたしは、嬉しくて、嬉しくて、いつまでもずっと見てたっけ。

大好きだった。






でも、当たり前だけど、チューリップは花びらを1枚、1枚と落としていき、
哀しいすがたになっていった。

分かってた、はずなのに。
花は、いつか枯れると。
命は、いつか尽きると。


黙って、枯れてしまったチューリップを見ていたら、何だか視界がぼやけてきて。

最初はひとつぶ、そしてみるみるうちにあふれた、涙。



顔をぐしゃぐしゃにして泣いていたら、ママが後ろから、優しい声で言った。

「ミミちゃん、チューリップの根元を掘ってみて」
宝物が埋まってるから、と言う。

あたしは訳も分からず、土の上に膝をつき、そっと手で土をかきわけていった。

土はあったかくて、やわらかくって、
つめの間に土が入っても、気にならなかった。
にぶくも快い痛みが指先に感じられる。

「あ…!」
そこにあったのは、小さくて、不格好で、でも確かな存在。

そっと拾いあげて、思い出す。



ああ、あたしはちゃんと分かってたんだ。
忘れてた、だけなんだ。
花は、また咲くと。
命は、また生まれ、めぐるのだと。

はじまりの街で、知ったこと。


もう、訳もわからずに泣きながら笑った。
そして、泥まみれのそれに、思わず、頬ずりをした。

「お帰り」

タネモンそっくりの、チューリップの球根。

また、育てよう。
花を、咲かせよう。
そしていつか、またデジタルワールドに行ったら、絶対に見せてあげよう。

綺麗に咲いた、チューリップを。


徒然なるままに書き進めていたものです。携帯の便利さを知りました。
題名は、結構適当。最近あんまりいいタイトルつけられないです。
そして存外に手抜きな作品でごめんなさい。雰囲気は好きなんだけど、文にしたら変になりました。

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